次は「働き方改革」を意識した人材育成について述べたいと思います。
働き方改革は、2019年から施行されている「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」で、「長時間労働の是正」、「正規・非正規の不合理な処遇格差の解消」、「多様な働き方の実現」が3つの柱となっています。
一つの法律ではなく、複数の法律の改正が含まれているのですが、グローバルな視野で「今」に合った労働環境作りと人口減少に対する対策がポイントになっています。
労働時間や有給休暇、最低賃金などは法律に従えばよいのですが、法律とは別に人材育成においてもいくつか意識するべきことがあります。
そして、次の5つの項目は、働き方改革の方針を人材育成活動に取り込むときのポイントとして重要になります。
以下は、業務のスキルアップに関連する教育とは別に、働き方改革を意識した人材育成の考え方として参考にしてください。
人材育成活動は原則として全従業員に対して行うことが重要です。これは法律的なことではなく、たとえパートターマーだとしても個々の成長は会社の業績アップにつながるので軽視できない、という考え方です。
パートタイマーやアルバイトは社員のような人事評価シートがない、時間の都合で1on1面談を実施できない、といった事情があるかもしれません。
多くの時間を費やすことが難しいとしても、パートタイマーやアルバイトにはOJTだけで終わるのではななく、教材として「やることリスト」と「対応するマニュアル」を準備することをお薦めします。
「やることリスト」は仕事別にチェックリストを作成します。それを見れば自分が担当する仕事に必要なことがリストアップされているので必要な知識や能力が一目瞭然で分かります。
そして、「対応するマニュアル」は、「やることリスト」に書かれている各業務に対応する形で、マニュアルや手順書などの教材を作ります。エクセルなどで「やることリスト」をリストアップして各業務に教材がリンクされているととても分かりやすく、個人学習も容易にできます。
【業務一覧表(教材リンク)】
社員の人材育成体系と同じようにパートタイマーやアルバイトも一度、教育スタイルを整備すれば、それが会社の財産、企業文化になります。
教育活動は、学校のように一斉に行うのが合理的ですが、会社組織の場合は、教育が必要な対象者が異なることや時間、場所の問題で複数の人を一度の授業で教育できないことがあります。
特に昨今では、リモートワークの拡大、有給休暇の取得の増加などにより、チームメンバーが一斉に集まることが難しいかもしれません。
最新の教育活動においては、このようなことを前提に考える必要があります。つまり、一斉型の座学ではなく、個々の状況に応じて人材育成を行う必要があるということです。
例えば、前述の「業務一覧表」に個別の学習スケジュールを記入して、本人と上司で共有します。
一斉学習ではなく、個別学習によってそのテーマの習得ができたら、働き方や休暇などに影響されることが少なくなります。また、そのスケジュールは自分のためだけではなく、上司と共有することにより、上司の部下に対する教育のマネジメントも分かりやすくなります。
情報共有についても気を付けたいことがあります。
働き方が多様化すると、チーム内でも顔を合わせることが少なくなります。いつでも近くに仲間がいれば、ちょっとしたことや細かいことも情報共有できると思います。しかし、直接会う機会が少ない職場だと「わざわざ言うほどのことではない」と自分で判断して、少しずつ情報共有のボリュームが減っていきます。しかし、実はちょっとしたことでも重要であったり、後々のキーワードとなったりすることもあります。
つまり、チーム間で直接顔を合わせる機会が少ないほど、報連相のルールをしっかり定めることが重要になってくるのです。
すでに人材育成体系は軌道に乗っている組織でも、新たにリモートワークを導入した場合は、個々の働き方に合わせて教育活動もリニューアルする必要があります。
今はチャット形式の情報共有アプリが発達しているので、報連相のルール、情報共有のルールを定めて、日常的にチャットアプリなどで情報伝達することをお薦めしています。
労働力不足により外国人労働者を雇用する企業が増えています。
特に中小企業の一部の業種では、日本人の採用を半ばあきらめて外国人労働者を中心に採用活動をしている会社もあるくらいです。
外国人労働者を雇用するときの一番の壁は「言語の壁」です。
母国で日本語を勉強してから来日する人もいますが、それでも仕事で通用するだけの日本語力を有する人は少ないです。
そうなると会社側がなんとかしなくてはいけません。
これを日本語(コミュニケーション)の問題ととらえて、語学教育を中心に行っている企業もありますが、外国人労働者に対する教育は、日本語の習得だけではなく、人材育成活動として計画的に実施することが重要です。
今の日本語のレベルで何ができるのか、あるいは次のレベルにステップアップするためにはどのくらいの日本語力が必要かなどを考えながら育成計画を立てるのです。
職種にもよりますが、日本語があまり話せなくても事前の翻訳やリアルタイム翻訳アプリを使えば、生産性の高い仕事も可能です。問題は、必要な教材を翻訳して、会話のための翻訳アプリに関係者が慣れる必要があるということです。つまり、外国人労働者だけではなく、周囲の日本人労働者の教育(理解)も重要になってきます。
外国人労働者を雇用する際は、次のことを検討、整備することが重要です。。
ステップ1.外国人労働者に何をやってもらいたいかを検討する。
ステップ2.外国人労働者にそれができるか、あるいは日本語や技能が少し上達したら、さらに何ができるか整理する。
ステップ3.外国人労働者にやってもらう仕事を決める(日本語力、技能別に設定する)。
ステップ4.その仕事を効率よく進めるための言葉の問題を解決する(必要書類や教材の翻訳、翻訳アプリの利用方法)
ステップ5.外国人労働者には簡易版の人事評価シートを実施してもらう(目標設定と評価はすべての労働者にとって重要です)
外国人労働者を雇用した時にもう一つ注意したいことがあります。これは、日本人の新人を採用した時にも言えることですが、「放置しないこと」です。
先輩社員は自分の業務で忙しいです。悪気はなくてもつい新人や外国人労働者を放っておいてしまうことがあります。
何もしない時間というのは、思いのほか長く感じます。周囲が忙しく働いているのに自分だけゆっくりしていると孤独感に陥ることもあります。
新人や外国人労働者に対して、マンツーマンで指導してあげることが理想的ですが、これができない時もあるはずです。そんな時のために、あらかじめ一人でやる仕事を用意してあげることが重要です。
一人でできる学習や書類の整理や先輩社員の簡単なお手伝いなど、とにかく意味のある時間になるように事前に準備することが重要です。
また、可能であれば、休憩時間やランチなども一人にならないように一緒に行動してあげるとよいでしょう。前述した「メンター制度」のように主となる教育担当者を決めて信頼関係を深めることができれば新人、外国人にとっても会社組織にとってもよい結果となります。
転職者に対する人材育成活動もこれまで述べてきたスタイルに従って実施すればよいのですが、最初に会社側(採用した部署)が把握するべきことは、新人のこれまでの経験と能力についてです。
一般的に中途採用であれば会社の求人に対して応募をして、採用後の職種(配属先)はある程度決まっています。本人の経験や能力がその仕事に合っていれば問題ないのですが、大きなミスマッチになっていないか初期の段階で確認することが重要です。もし、その仕事に向いていない、あるいは、もっと別の能力があるので異動(配置換え)した方がよい場合などは、お互いのためにも柔軟に対応してください。
通常は3か月位過ぎると本人の能力や仕事に対する考え方などが分かります。このタイミングで上司は1on1面談で仕事に対する満足度やストレスについて確認するとよいでしょう。
また、この先のキャリアパスについて話し合うことも重要です。本人が将来についてどのように考えているか、会社側はどのようなことを期待しているかをしっかり情報交換することは、信頼関係を深めることにもつながります。
本人の能力や考え方が分かれば、会社の人材育成体系に従って育成活動を行う(軌道に乗せる)ことができます。
転職者は年齢も経歴もさまざまなので、仕事に慣れてきたタイミングでしっかり現状把握とキャリアパスの共有をしてください。
ハラスメントとは「嫌がらせ」という意味ですが、昨今ではすっかり馴染みの言葉になりました。
パワーハラスメント(パワハラ)、セクシャルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)などが良く聞くハラスメントだと思いますが、ネットなどで調べると30種類以上のハラスメントがありました。
人材育成においてもハラスメントに関する教育は全社員共通の必須事項となります。
ハラスメント教育の目的は当然のことながら職場からハラスメントをなくすことです。しかし、人が集まればさまざまな人間関係が生じます。生理的な好き嫌いも出てくるでしょう。
これらの細かい好き嫌いまで会社がマネジメントすることは難しいですが職場環境を快適に保つためのルール作りや社内研修は必要です。
ハラスメントのルールを作るとどうしても禁止事項をリストアップするようなスタイルになります。もちろんこれが一番分かりやすいので問題はないのですが、本質はこのサイトの冒頭部分で述べた「心理的安全性の高い組織を作る」ことにあります。
心理的安全性の高い組織ではハラスメントは少ないです。社員同士がお互いを尊重して自分らしさを発揮している職場では、問題が大きくなる前に当事者間や周囲で解決できるからです。
ハラスメントに関する規程とその理解のための学習は必要ですが、心理的安全性が高い組織作りがその上位テーマとしてあることを忘れずに人材育成につなげてください。
働き方改革は、さまざまな法律の改正と新しい考え方を企業や労働者にもたらしました。
このような大きな改革は頻繁にはないと思いますが、労働に関する法律の部分的な改定は今後もあり得る話です。
そもそも国会では新しい法案について日々議論しています。当然のことながらその中には企業や労働者に関係するものもあります。
人事部としては、企業や労働に関する法律改正に敏感になることが重要です。
まずは、ニュースなどで情報をキャッチして、新しい法案に対して自社ではどのように対応するのがよいか検討します。
多くの場合、ニュースやネットで対策も話題になるので取り残される心配は少ないかもしれませんが、盲目的にマスコミや同業他社のやり方を真似するのは危険です。
また、新しい法案に対応するための教育が必要な場合は、人材育成の一環として取り組み方を決めて、理解と実行のために働きかけることが重要です。
法律の改正とは別に「助成金」についても人事担当者として情報を把握すると会社にとって大きなメリットとなる場合があります。
特に中小企業にはさまざまな助成金が設定されています。
一つやっかいなのは、助成金は一定ではなく、地方自治体によって内容や期限がさまざまである、ということです。そして、新しい法案のようにマスコミはあまり取り上げません。
つまり、自社に合った助成金があるかどうかは自分で探さないといけません。また、手続きが面倒な場合もあるのがもう一つのデメリットです。
しかし、これらのことをクリアして有効な助成金を利用できれば会社は確実に得をします。
助成金について分かりやすく説明しているサイトもたくさんあるので、定期的に情報収集するとよいでしょう。