人材育成に関する書籍やネットの情報を見ると、人材育成活動において大切なことがたくさん紹介されています。どれもその通りのことばかりですが、私が中小企業の人材育成のコンサルを実施する際は、次の5つを特に重視しています。
① ゴールを意識する
② 人事評価制度と連動させる
③ 1on1面談を大切にする
④ 人材育成を日常業務の一つとする
⑤ リーダーを育てる
それでは、これらの重要項目について詳しくご説明します。
人材育成を実践するときに、明確なゴールを設定することはとても重要なことです。分かりやすいゴールがあるかどうかで成長のスピードも変わります。
世の中には自分の夢を叶える人とそうでない人がいます。
この違いは本人の能力というよりも、夢に対する明確なビジョンと具体的な行動計画があるかです。例えば、高校時代の大谷選手のノート(マンダラチャート)は有名な例です。
何となくベストを尽くして頑張ろうと考えている人と、絶対にこれを達成したいと考えている人では、モチベーションや行動が違うのです。
ビジネスの世界も同じです。明確なゴールを持っている人はそのゴールに向かって前進します。そして、常にゴールまでの距離を意識します。仮にゴールにたどり着かなかったとしても、何が足りなかったのかを考える(反省する)ことによって、次のチャンスではこれまでよりも高い確率で目標達成するでしょう。
人材育成におけるゴールとは、そのテーマを習得した自分ということになります。例えば、プレゼンテーションが苦手であれば、上手なプレゼンテーション、〇〇に対する知識が不足している場合は、〇〇に関する知識の習得がゴールになります。つまり人材育成活動を行う際は、必ずゴールや目的を意識するということです。
明確なゴールができたら、達成のためには何をしなくてはいけないか(行動計画)と達成期限について検討します。
設定したゴールに対しての行動計画は具体的であればあるほど達成に近づきます。
一つの方法としてご提案しているのが、ゴールを達成しているシーンをイメージして、今とそのシーンを結んで行動計画を考えるという手法です。ゴールシーンからカレンダーを逆算しながら一つ一つの行動をイメージするのです。
ちょっとしたゴールであれば、必要な手順を考えるのは難しくないかもしれませんが、ビジネスの売上目標達成などの場合は、さまざまな可能性のことを考える必要があります。
ゴールに対するしっかりとした行動計画を立てた場合でも、その通りには進まないこともあります。そんな時は、トライ&エラーの考え方で、軌道修正をしながらゴールを目指します。つまり、行動計画は今の状況に合わせて柔軟に変更することも大切なのです。
達成期限については、例えば、1年位かかる仕事だとしても〇月〇日までにはここまで進める、△月△日まではここまで、というように最低でも1か月ごとの進捗について計画します。そうすると、今月ここまでやるためには、今週はここまでやる、今日はこれを必ずやる、というように日々のやるべきことが見えてきます。
行動計画の変更によりスケジュールがずれる場合がありますが、時間には限りがあるので、同じペースでスケジュールをただ後ろ倒しにすればよいという訳にはいきません。ゴールに対する行動計画と達成期限(スケジュール)は常に合わせて考えることが重要です。人材育成には「明確なゴール」と「適切な進捗確認」が重要ですが、これを「給与・人事評価制度」と連携することが重要です。
人材育成と給与・人事評価との関係は、ゴール(目標)を達成すれば昇給や昇格につながるという関係です。人は成長することに達成感や喜びを感じます。これだけでも素晴らしいことですが、これに給与アップも加わればより一層やる気になるはずです(逆に言うと目標達成をしても給与が上がらないと人は不満に感じます)。
もし、給与・人事評価制度の体系やルールがないのであれば、先にこちらを作るべきです。人材育成体系はその後という順番になります。
給与・人事評価制度の作り方については、別のサイトに詳しくまとめたのでそちらを参考にしてください。
「人事評価制度の作り方」のサイトはこちら
①コミュニケーションの重要性
ビジネスにコミュニケーションは不可欠です。
お客様との商談、会議、情報交換、報連相など、ビジネスはコミュニケーションの積み重ねで成り立つと言っても過言ではありません。
このように考えると、コミュニケ―ションの精度を上げることは業績に直結する重要なテーマであることが分かります。
人材育成におけるコミュニケーションの第一歩は、信頼関係を築くことです。
そして、信頼関係を構築するためには相手を理解することが重要です。
相手を理解するためには、ある程度の時間をかけてお互いの意見や考えを聞くことが重要です。仲の良い友人とはたくさんの時間を共有してお互いの性格を知っているはずです。
ビジネスの世界では、親友のような関係性を作る必要はありませんが、それでもお互いを理解することに努めます。そのために積極的にコミュニケーションをとるということです。
昨今では、合理的に仕事を進める、無駄を省くことが共通理念として浸透しているので、職場で学校の休み時間のように好きな会話をすることが少なくなっています。また、必要最低限の会話で理解する(理解させる)のがデキル人物だという風潮もあります。どんな状況でも上手に周囲とコミュニケ―ションが取れる器用なタイプの人はよいのですが、そうでない人はますます情報共有から遠ざかってしまいます。
このようなコミュニケ―ションの能力差を埋めるために有効なのが1on1面談です。
1on1面談は上司と部下が一対一で意見交換する場ですが、上司のコミュニケーション能力が高いと、それがお手本となり、部下のコミュニケーション能力も向上します。
今では「1on1面談」という言葉も定着して、中小企業でも多くの企業が実施しています。そして、私がご提案している人材育成体系でもこの1on1面談を非常に重視しています。
1on1面談を実施する際は、次の5つのことを意識するとよいでしょう。
① あらかじめ日時を設定して定期的に実施する(例えば、毎週月曜日の〇時から〇時まで)
② 話の内容(テーマ)は事前に設定しておく(例えば、先週の営業報告、今週の計画、チームとしての情報共有事項、現在困っていることなど)。
③ その場で答えがでない時は、仕切りなおす(時間を意識する、後でしっかり調べる)。
④ 面談の内容はしっかり記録する(後で振り返られるようにする)。
⑤ 心理的安全性(前述)について意識する。
また、上司はついアドバイスに力が入って上司トークの時間が長くなる傾向にありますが、部下の話をしっかり聞くことが重要です。
上記の①~⑤に加えて上司はさらに次の3つも意識してください。
1on1面談は部下のために行うものだと考えてください。つまり、部下が「有意義な時間である」と感じることが重要です。そして、面談の結果、「有益な情報交換ができた」、「もやもやの解消や頭の整理ができた」、「仕事へのやる気がでた」ということになれば大成功です。
②若手社員について
1on1面談には「万人に通用する正解」はありません。人はそれぞれ性格が違うように、効果的なコミュニケーション方法も異なります。
若手からベテランまで同じようなメソッドで1on1面談を実施するのではなく、本人の価値観をある程度理解することが円滑なコミュニケ―ションにつながります。
例えば、Z世代(1997~2012年生まれ)はネットネイティブ、自分にとっての価値を重視した消費行動をとる、社会課題への関心が高い、などと言われています。
つまり、コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)を重視しています。しかし、社会課題への関心も高いので身勝手という訳ではありません。広い視野で合理的に物事を捉えているのだと思います。
私は55歳です。これまで約15年間、早稲田大学の学生を中心に就職活動のアドバイスを行ってきましたが、私の学生時代と比べると、今の学生は非常にまじめだと感じます。
35年前(私の学生時代)は、「自信を持って前へ進めばどうにかなる」という根拠のない自信のおかげで将来に不安を感じることはあまりなかったように記憶しています。
バブル期が終わり、就職氷河期、ITの急速な発展などを経て、若者がより現実的になったように感じます。現実的ということは、バブルのような夢物語や頑張ればどうにかなるといった精神論は通用しません。
特にバブル期に学生時代を過ごした人はこのゼネレーションギャップに注意する必要があります。
若者に合わせる、ということではありません。
人はさまざまなことを考える際、自然と自分を基準に考える傾向があります。この事実に気づき、物事を客観的に見る努力が必要だということです。
1on1面談を行う時や目標達成のための行動計画を作る際は、自分の基準にとらわれずに、常にゼロベースから現在の最も有効的な方法を考えることが重要です。
もちろん若者だけではなく、中堅社員、ベテラン社員にもそれぞれの価値観があるので、上司として1on1面談を行う際は、このことを意識して実施してください。
人材育成は、決まった体系などは作らずに、必要な時に、必要な人に対して行えばよい、という考え方があります。
とても合理的で良い考えのように思えますが、問題は、必要な時や必要な人をしっかり認識して、タイムリーに社員教育や社内研修を提供することができるか、ということです。「臨機応変」や「自由」を扱うのが時として難しいのと似たイメージです。
このようなことから、人材育成はその会社に合ったスタイルで、定型を作り、継続的に実施することが重要になります。
例えば中学校では、決められた日に授業があり、教科書があり、理解度を確認するためのテストがあります。そして、希望する高校へ進学する(あるいは就職する)という大きな目標があり、その目標達成を意識したスケジュールがあります。
ビジネスにおける人材育成も同じように考えることができます。
学校の教科書のように会社も何かしらの教材を準備します。そして、学校のように定期的に学習と理解度の確認をすることも重要です。志望校合格は、例えば、人事評価シートに掲げた年度目標になります。そして、ある程度決められたスタイルで授業を行うように、会社でも例えば1on1面談やOJTの体系、個人学習の体系、そしてマニュアルなどの教材を整備します。
つまり、人材育成は日常業務の一つとして決められたスタイルで行うことが重要なのです。
大人なのだから「分からないことがあったらいつでも聞いて」でできると思ったら、それは間違いです。できる人もいるかもしれませんが、受け身の姿勢では十分な成長は期待できません。そもそも、初心者は自分が何が分からないかも分かっていないので、自分から適切な質問をするのは難しいです。
人材育成を日常業務の一環として当たり前のように取り組むことができたら、それは、企業文化につながります。そして、企業文化は企業ブランドへと形を変えてお客様へ伝わるのです。
人材育成を成功させるためにはしっかりとした給与・人事評価制度や1on1面談、OJTの体系、個人学習の体系、社内研修、マニュアルなどの教材が必要であることは前述の通りです。そして、これらのツールが完成した後は、運用(実施)することが重要になるわけですが、特にリーダーに重要な役割を期待します。
リーダーは部署長(部長、マネージャーなどの管理職社員)のイメージです。リーダーは部署の仕事や部下のことを一番よく分かっています。そして、部下も上司であるリーダーの言うことは聞くでしょう。
つまり、人材育成体系は、部署長がしっかり理解して運用するのが最も効果的なのです。人事部はそれをサポートするという役割になります。
人材育成の成功は各部署長の手腕にかかっていると言っても過言ではありません。しかし、すべての部署長が会社の意図する人材育成体系を理解して上手に運用してくれるとは限りません。
私のコンサルでは、人材育成体系を理解して継続的に部下を成長させることのできるリーダーの育成を一つのゴールとしています。
リーダーがしっかり舵取りできれば、人材育成は自立型として効果を発揮します。そして、リーダー育成の第一歩として、私はリーダーとなる各部署長と1か月に2回(慣れてきたら月1)で1on1面談を行っています。
この1on1面談では、人事評価シートで設定された目標や達成したいことの進捗確認と達成のためのアドバイスを行います。アドバイスと言っても私が何かを指示する訳ではありません。問題提起をして一緒に考え、最終的には部署長が計画(方向性)を示します。さらに、私はその計画が現実となるように、具体的な方法を聞いたり、スケジュールを確認したりします。
リーダーの人事評価の目標には、当人の業務に関することだけではなく、部下やチーム全体のマネジメントに関することも記載されているはずです。そうなると部下やチームの成長のためのOJTやマニュアル、教材の整備も必要になってきます。
リーダーとの1on1面談を実施して行くうちに、チーム全体に必要な人材育成体系が少しずつ整備されることも狙いの一つです。
そして、各リーダーには私と行っている1on1面談のスタイルを習得して部下にも同じことをやってもらうように伝えます。もちろん、すぐに実践するのは難しいですが、リーダーの素養がある人は6か月位で部下との1on1面談を中心に上手に人材育成活動を行うようになります。
各部のリーダー(部署長)がこの1on1面談の意味を理解して、部下に実践できるようになると私の役割は終了になります。
各部のリーダーが人材育成活動を理解して実践できれば外部に委託する(経費をかける)必要はありません。もちろん、専門分野の研修(Off-JT)や自己啓発は大切ですが、これらも自社で計画して自社にとってベストな選択をすればよいのです。
ここまでリーダー育成の重要性について述べましたが、リーダーに限らず、優秀な人材は自分のことだけでなく、チームや会社全体の成長を願い、いろいろな提案をします。提案する(建設的な意見を言う)ということは、そのことについてある程度の勉強(知識や経験)が必要です。さらに提案や意見には責任が伴います。
このように考えると、建設的な意見を言える人材を大切にしたいです。そして、人事部はこのような建設的な意見を言える社員を把握して(見抜いて)、適切な昇格とともに中心的な役割を任せることが重要です。