大企業でも、中小企業でも人材育成が重要であることは、多くの方が認識している通りです。「人材育成」を「人財育成」と表現している会社もたくさんあります。
企業にとって、人材育成(共に働く従業員のパフォーマンス向上)は、業績に直結する重要なテーマです。
しかし、一言に人材育成と言っても、その方法もコストもさまざまです。どのスタイルが最も効果的であるかが見えづらいのが人材育成の難しいところです。
特に中小企業は、人材育成に費やすコストや時間がなかなか確保できていないようです。
中小企業の経営者や人事担当者はそんな状況を把握して、どうにかしないといけないと感じていても、具体的に自社に合った人材育成のスタイルを見つけるのは簡単ではありません。
本サイトでは、人材育成の種類や特徴をご紹介しながら、特に中小企業にとって効果的な人材育成のスタイルをご紹介します。
人材育成は、スポーツのチーム作りに例えられることが多いです。
私のコンサルでも、会社組織を野球やサッカーのチームに例えて、人材育成の必要性や取り組み方のアドバイスすることがあります。
どんなチームでも勝利を目指すのであれば、体系立てた練習や目標達成に向けた取り組みが不可欠です。特に強いチームは、しっかりとした目標があり、指導者やリーダーがいて、独自の練習方法があり、チーム一丸となって取り組んでいます。会社組織も同じだと考えれば人材育成の重要性が分かり、身近に感じることができるはずです。
企業の人材育成は、給与制度や人事評価制度と連携させることが重要です。プロスポーツで言うと、目標と成果(活躍)に対する報酬(年俸)のイメージです。
従業員が仕事をする目的はいろいろあると思いますが、「生活のため(収入を得るため)」が働く理由の最上位に入ると思います。そういう意味では、会社組織を円滑に機能させるためには、収入に関するルールを定めた「給与・人事評価制度」が非常に重要になります。
給与・人事評価制度については、別のサイトで詳しくまとめたので、合わせて参考にしてください。
「人事評価制度の作り方」のサイトはこちら
どんな組織にも「目標」があります。
例えば、コンサートなどを楽しむ集団は、共通の目的はあったとしても「目標」は共有していません。こちらは組織ではなく「群集」と呼びます。
会社は「組織」なので、目的と同時に目標を共有しています。
そして、組織の目標を達成させるためには、役割が必要です。適材適所に人を配置することによって効率よく目標達成へアプローチできるのです。
スポーツの適材適所といえば、ピッチャーやキャッチャーのようなポジションのこともあれば、監督やコーチ、キャプテンのような役割のこともあります。
企業も同じです。その社員に合った職種、そして役職があります。
そして、さらに重要なのが「リーダー」の存在です。
リーダーは精神的支柱と技術的なお手本であることが求められます。リーダーの能力が高い組織は成長します。一方でリーダーがあやふやな組織は凝集性(メンバー同士のつながりの強さ)が低く、効率がよくありません。
人材育成で最も大切な要素の一つが「良いリーダーを育てること」です。
それでは、良いリーダーとはどんな人物像でしょうか。
リーダーに関する書籍やネットを調べると、良いリーダー像として、計画力、実行力、リスクマネジメント力、コミュニケ―ション力、先見性、誠実性、寛容性、責任感、統率力、経験(特に失敗の経験)、などがリストアップされています。
もちろんどれもリーダーに必要な能力ですが、私は、分かりやすくするために、会社組織における良いリーダーの条件として次の3点を強調しています。
①しっかり現状把握ができる。
②良いルールを作ることができる。
③後進の育成のことも考える。
①の「しっかり現状把握ができる」というのは、ビジネスはワンパターンではなく、さまざまなケースがあるので、臨機応変に対応するために必要な能力です。
今の状況、メンバーの様子などの現状を常に正しく把握できてこそ、次の最良の一手が見えてくるのです。また、何か問題解決をしたいときも、しっかり「現状把握」することが重要になります。
正しい現状把握ができてこその、「正しい目標設定」や「正しい行動計画」なのです。
②の「良いルールを作ること」もリーダーにとって不可欠な能力です。
組織には複数の人がいます。複数の人がいればルールが必要になります。実際に、会社組織にはさまざまなルールがあります。ルールという言葉が少し堅苦しいようであれば、「考え方」や「方針」などと表現してもよいでしょう。
そして、ルールで重要になるのが「そのルールで目的や目標を達成できるか」ということです。
例えば、新しいアイデア(企画)を出し合い検討する会議において、発表者が偏り新しいアイデアの創出に行き詰まることが多いので、「会議出席者は必ず1回は自分の考えを述べること」というルールを作ったとします。
果たしてこれは、良いルールでしょうか。
会議に慣れていない人や引っ込み思案の人に場慣れしてもらうのが目的であれば、必ず一回は発言する、というルールは合理的かもしれませんが、必ずしも新しいアイデアの創出につながるとは言えません。
アイデア創出が目的であれば、関連する情報収集やフィールドワークの方が効果がありそうです。
しかし、リーダーが「会議出席者は必ず1回は自分の考えを述べること」をルールにした場合、それに従うことになりますが、これでは目的を効率よく達成できません。
良いルールを作るためには、経験や知識など、さまざまな能力が必要になります。逆の視点で考えると、良いルールを作れる人は、その分野において豊富な経験と知識があるということになります。これが良いリーダーの2つ目の条件なのです。
③は、リーダーの条件としてあまり注目されていないかもしれませんが、特に会社組織では、非常に重要になります。
自分でもリーダーという役割が好きで、周囲からもリーダーとしての評価が高い場合、その人は長い期間、リーダーを務めることになると思います。しかし、これは手放しで喜んでよい状態ではありません。
どんな人物でもいつかは引退(退職)するときが来ます。リーダーを後進に譲る日は必ずやって来るのです。
「自分が引退した後のことは、自分には関係ない」と考えてはいけません。リーダーは現役の時から、後任のことを考えなければならないのです。
一人の優秀なリーダーのおかげで栄えた組織が、そのリーダーがいなくなった途端に衰退の道を辿るという話は枚挙にいとまがありません。そうならないために、継続的な人材育成や良いルール作りによって「属人力」ではなく「組織力」で組織を運営することが重要なのです。
「しっかり現状把握ができる」、「良いルールを作ることができる」、「後進の育成のことも考える」ことのできるリーダーは、おそらく、計画力、実行力、リスクマネジメント力、コミュニケ―ション力、先見性、誠実性、寛容性、責任感、統率力なども長けているはずです。あるいは、リーダー本人でなくても、周囲の人がこれらのことをサポートすることもできます。
このようなことから私のコンサルでは、良いリーダーの条件として、上記の3つが特に重要だと考えています。
組織には良いリーダーが必要です。
一般的に創業初期などで社員数が少ない時は、経営者が自らリーダーなってさまざまなルールを作ります。そして、そのルールに沿って組織運営を行い、社員は成長します。
社員の成長を最大限にするために不可欠なのが「心理的安全性の高い職場」を作ることです。
リーダーはルールを作り、部下をマネジメントします。最初はどこから手を付けて良いか迷うかもしれませんが、まずは組織の心理的安全性について考えてみてください。
心理的安全性は、1990年にハーバードビジネススクールのエドモンドソン先生が論文にて発表しました。そして、その後グーグル社が実施した大規模労働改革プロジェクト「プロジェクトアリストテレス」で発見した「チームを成功へ導く5つの鍵」の中の1つとして紹介されたものがとても参考になります。
簡単に説明すると、心理的安全性が確保されている組織は、離職率が低い、他のメンバーのアイデアをうまく活用できる、収益性の高い仕事ができる、成果に応じて評価されることが多い、などといったプラスの考課が生まれやすいということです。
そして、この心理的安産性を高めるためには、次の4つが重要とのことです。
組織の心理的安全性に不安がある場合は、社員の皆さんへ次のようなアンケートを実施するとよいでしょう。そして、気になった答えを書いた社員には話を聞いて必要に応じて対応策を考えます。
人材育成体系を作る際は、最初に組織の現状把握を行い、心理的安全性が高いことを確認することが重要です。もし、心理的安産性に問題がある場合は、早急に「風通しの良い前向きな組織」に改善する必要があります。
人が成長するためには教育が必要です。
企業の人材育成はこの教育をいかに効率よく行うかがポイントになります。つまり、人材育成の体系を考える際は、人が何かを習得するときのプロセスを理解して、それに沿った教育活動を実施することが重要なのです。
ここで、ビジネスパーソンが何かを習得するまでプロセスの一例をご紹介しましょう。
①テーマの概要と目的を理解する
・テーマの内容とそれを習得する意味を伝える。
②教育環境を理解する
・教育手段、教材、教育場所、評価(習得度合の確認方法)、スケジュールなどを伝える。
③具体例で理解を深める
・ケーススタディ、過去の事例などを分かりやすく伝える。
④実践する
・現場で実際に本人に体験してもらう。実践の場としてOJTの体系を整備する。
⑤反省、検討する
・実際に行った後の理解度の確認をする(弱点を上司と共有)。
⑥反省、検討を踏まえて再度実施する
・この繰り返しで一つのテーマを習得する。
また、もう少し大きい視点でビジネスパーソンの成長のステップをご紹介します。
ステップ1:仕事(作業)を覚えた。
ステップ2:仕事に慣れて、同じ作業をより効率的に実行できるようなった。
ステップ3:気づき、改善などで自分の仕事のパフォーマンスを向上することができた。
ステップ4:周りを巻き込んだ提案をして、自分だけでなく周囲のパフォーマンスも向上させることができた。
ステップ5:根本的な提案をして、全社的なパフォーマンスを向上させることができた。
このように、最初は仕事を覚えること、そして慣れることによるパフォーマンスの向上を目指します。しかし、ある程度のレベルまで行くと、「気づき」や「提案」をするようになります。
ステップ2までは、ほとんどの人がたどり着きます。しかし、ステップ3になると自分の仕事に対する問題点などに気づき、どうにかして改善したいと思う必要があります。
ステップ1と2は「真面目にがんばる」ステージとも言えます。これを超えてステップ3になるためには「問題解決力」が必要になります。ステップ4と5は視野を広げて、自分のことだけではなく、部門や会社全体のことを考える必要があります。
少々乱暴な言い方をすればステップ1と2は「労働者マインド」、ステップ4と5は「経営者マインド」と分類できます(ステップ3はその中間)。そして、ステップ1と2では、作業の積み重ねの結果が成果になるので「足し算」の考え方です。つまり、作業A、作業B、作業Cをこなせば、成果は「A+B+C」です。
一方、ステップ3以降は、従来の作業そのものに対してアイデアを加えることで、飛躍的に効率を良くします。つまり、「(作業A+作業B+作業C)×アイデア(問題解決策)」という「掛け算」の発想なのです。
つまり、人材育成においては、コツコツと仕事のノウハウを取得するようなテーマと「問題解決能力の習得」のように組織の成長を一気に加速するようなテーマがあるのです。
ここでは人材育成の手段として、4つのスタイルをご紹介します。それぞれに意味があり、活用方法次第では大きなパフォーマンスを発揮します。しかし、デメリットもあります。
大切なことはそれぞれの特徴を理解して、自社に合ったスタイルで運用することです。
①OJT
OJTとは(On the job training)の略で、自分に課せられた業務を実践しながら学んでいく教育スタイルです。
一般的には、就業中に先輩社員から仕事を教わりながら、自分ができることを少しずつ増やしていきます。
教える人が上手で、教わる人もやる気を持って行えば有効な方法ですが、逆に言えば、教える人と教わる人のどちらかのパフォーマンスが悪いと双方にとって時間の無駄になってしまうおそれがあります。
「ウチの人材育成はOJTが中心」ということで現場任せにしている中小企業が多いですが、これではいけません。
仮にOJTが中心だとしても、OJTが効果的になるような教育体系を整備する必要があります。つまり、先輩社員への教育や教材の整備が重要になります。
OJTは一度、良い体系ができたらコストがかからないというメリットがあります。予算の少ない中小企業は、まずは効果的なOJTにするための必要なツール(マニュアルや教材)の準備と先輩社員の教育を行うとよいでしょう。
②Off-JT
Off-JTは(Off the job training)の略で、職場を離れて行う研修などのことです。
外部の研修、社内研修やeラーニングなど、さまざまなスタイルがあります。
Off-JTの良いところは、必要な専門知識を効率よく身につけることができることです。日常的な業務では、あまり遭遇しないテーマ(しかし重要)や一人ではなかなか習得できないマネジメントに関することなどは、研修やeラーニングが有効になる場合があります。
研修を自社内で実施する社内研修はコストが最小限で済みますが、例えば専門性の高いテーマなどは外部の研修を利用した方が良い場合があります。コストや時間(勤務時間とは別の時間が必要)がOff-JTのデメリットと言えますが、業務のパフォーマンスが向上して業績が上がり、結果として利益につながるのであれば、必要に応じてOff-JTを実践することも重要です。
私のコンサルではなるべく無駄なコストを省くことをアドバイスしていますが、目的が明確で、そのOff-JTでしっかり習得(目的達成)できるのであれば有効だと考えています。特に社内研修は、講師(管理職社員やベテラン社員)にとっても教えることによって自らも成長することができるので一石二鳥と言えます。
③自己啓発(SD)
自己啓発とは、自らの意志で能力やスキルの向上を行うことです。英語で(Self Development)と言うのでSDと呼ばれることもあります。
自己啓発を人材育成活動として正しく行うためには、何かしらの指針が必要になります。
一定の予算(書籍代やeラーニング費用)を会社で負担してあげるので後は自分で考えてやってほしい、という自由なスタイルで実践している企業もありますが、これは人によっては難しいことです。
まず、自分の意志というところが難しいです。そして、何をやって良いか迷ってしまいます。書店やネットで調べて興味ありそうだと開始しても果たしてそのテーマが自分の仕事のプラスになるかの判断も難しいです。会社としては、予算をかけているからには、今の業務のプラスになって仕事のパフォーマンスを上げてほしいと考えるのは当然のことです。
やはり人材育成は本人任せではなく、しっかり計画をして、目標設定と成果の確認をすることが重要です。そして、自己啓発は会社の人材育成活動を補足する形で行うとよいでしょう。
④メンター制度
メンター制度とは、入社3~5年位の比較的若い社員が新人の面倒を見て、新人の帰属意識や業務に関する知識の向上を目指す制度です。ブラザー・シスター制度と呼ぶ会社もあります。
メンター制度は、「心の支え」という側面が強いです。そういう意味では、同じ部署の先輩ではなく、別の部署の先輩がメンターになるというやり方もあります。
社員数の少ない中小企業ではなかなかメンター制度を導入することは難しいかもしれませんが、仕事だけではなく、精神的なケアもできれば離職率の低下につながります。
メンター制度は継続することが重要です。そして時を経て、良い企業文化の醸成にもつながります。